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化けそこなった牧神パン (ギリシャ) |
半人半馬のいて座につづいて登場するやぎ座が,なんと半ヤギ半サカナというのだからおもしろい.
ハソバーグステーキを食べようとおもってレストランにはいったら,となりのテーブルで食べているビーフシチューがおいしそうで,どっちにしようかまよっているうちに,うしろのテーブルで注文したカツカレーがやってきて,頭の中でハンバーグとシチュウとカツカレーの三つどもえの混戦がはじまる.そんなときそれぞれを1/3ずつ盛りつけたハソシチュカツカレーなんていうのができないかとおもうわけだ.自由奔放なギリシャの神々をつくりだした発想の原点は,ハンシチュカツカレーとたいしてちがってはいない.
さて,やぎ座の奇妙なヤギは,牧神パンの化身だという.いや,化けそこないというべきだろう.
パンPan(ローマ神話のファウノヌスFaunus)は,上半身は人間の姿をしているが,豊富なあごひげをたくわえ、ひたいからヤギの角がはえている。そして、下半身はヤギの姿をし、足にひづめを持つという、牧人と家畜の神様である。
パンは、足の速い伝令の神へルメスの子だった.
ヘルメスほ,生まれたその日に,アポロンの牛を盗んだという早熟な子で、4日も経つと立派な若者になった。そして、羊飼いの少女ペネロペを愛した.
ところが,少女とヘルメスのあいだに生まれた子は想像もつかない奇妙な姿をしていた。母ペネロペはびっくり仰天、そのままどこかへ逃げてしまてしまった.
ヘルメスは,その子をウサギの毛皮につつんでオリンポスヘでかけ,神々にみせたところ,その子の奇妙に愛矯のある顔は,すべての神々をおもしろがらせた.
すべての神々を喜ばせたということで,神々はその子をパンと呼ぶことにした.パンには“すべて”という意味がある.
成長したパンは,父ヘルメスの血をひくだけあって,身軽に森や岩山をかけめぐり,毎日ニンフ達を追いかけまわした.
彼に追われたシュリンクスSyrinxは,川岸においつめられたとき,とっさに葦(あし)に身を変えてしまった.
パンは,風にそよぐたびにかれんな音楽をかなでるこの葦から,“シュリンクスの笛”をつくりながく愛したという.
彼に追われて変身したニンフは,シユリソクスだけではない.
ピテュスPitysは“松の木”に変身したし,エコーEchoはこだまになってしまった.
ニンフに逃げられた日のパンは,失恋の痛手とつかれをいやすために,木影で昼ねをするのが日課だった.
もし,誰かがこの昼ねのじゃまをすると,彼は狂ったように怒り,超能力でもってあたりに恐慌をまきちらすという.
パンが怒ると,人も,動物も,草木も,そして神々でさえ恐怖にふるえるのだ.
パンの怒りは,パニッニクPanicの語源になった.
元来パンは,美女と音楽と平和を愛し,ときにすこしおっちょこちょいぶりを発揮する愉快な神である.
あるとき,ギリシャの神々が全員あつまって大酒宴をひらいたときのことだ.音楽や踊りが得意なパンはもちろん大活躍だった.
と,突然,テュフォンTyphonという怪物がおどりこんできた.
テュフォンは,巨大な肩に百の竜の頭をもち,下半身は毒蛇がとぐろをまき,全身は羽毛につつまれていた.おまけに,にらむと目から火を吹くという怪物だ.
神々からのけものにされた腹いせに暴れたのだが,ふいをくらった神々は,てんでに,いろんな動物に姿をかえて逃げだした.
得意の絶頂にあったパンは,だれよりもあわてた.なにがなんだかわからず,とにかく得意のヤギになって駈けだしたが,すっかり平静を失なっていたパンは,そのまま川にとび込んでしまった.ところがあわてているのでうまく魚に化けかえられない.
えーい、いまのままいよっと,下半身だけ魚になった珍妙な姿で,川を泳いで逃げてしまった.
その愉快な姿は,またまたギリシャの神々を喜ばせた.神々はこのおもしろい姿を天に上げて形を残そうと考えた.そして,ワッショイ,ワッツョイ,いやがるパンを無理やり担ぎ上げて星にしてしまった.
この愉快な姿を永遠に楽しもうというのだ.現代なら“ビデオテープでもう一度”といったところだ.
星になったパンは,天で頭を冷やして,自分のおっちょこちょいぶりがはずかしくなった.やぎ座の星が暗くてさがしにくいのはそのせいだろう.
陽気な牧神パンの姿ともおもえないが,その彼の過剰な恐縮ぶりがまたおもしろい.
パンのこの奇妙な姿は,もともと突然彼をおそったパニック(恐慌)が原因なのだが,パニックPanicの語源となるほど恐れられたご本人としては,大いに不本意な姿なのだ.
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